ラジカル窒化
製品の特徴
「ラジカル窒化」とは、従来の窒化法の問題点を改善するために、プラズマ窒化反応理論を基礎として開発された、新しいプラズマを活用した窒化方法です。この窒化法は高速度工具鋼や合金工具鋼の処理に適しています。その特徴を以下に示します。
対象製品
シャンクツール | チップ | ホブ・ピニオン | 丸刃 | 機械部品 |
△ | △ | × | × | ◎ |
プレス金型 | 樹脂金型 | 粉末成形金型 | ダイカスト金型 | その他 |
◎ | ◎ | △ | △ | △ |
ラジカル窒化の6つのポイント
- 表面状態をほとんど変化させません。
- 化合物層を形成せず、拡散層のみを形成できます。
- 寸法変化を非常に小さく抑えることができます。
- これらの特徴により処理後の後加工が不要となります。
- 500℃以下での窒化処理です。
- 処理表面に直接PVD法などで硬質膜を形成できます。
これらの特徴によって、金型や機械部品などの耐摩耗性が向上し、寿命を延ばし、生産性を向上させることができます。また、ラジカル窒化と硬質膜形成を組み合わせた複合硬化処理を行うことにより、硬質膜の特性を大幅に向上することができます。
断面硬度分布
各処理時間でラジカル窒化処理されたSKH51の断面硬度曲線(処理条件:500℃)
断面組織
窒化後の断面組織写真
(基材:SKH51、エッチング:ナイタル)
化合物層はありません
処理温度500℃
適用材料例
合金工具鋼 | SKD61 | プリハードン鋼 | HPM1, HPM50 |
SKD11(高温戻し) | NAK55, NAK80 | ||
高速度工具鋼 | SKH51, SKH57, HAP50 | 構造用合金鋼 | SACM645, (SCM) |
ラジカル窒化と他の窒化法による表面祖度の変化と窒化状態
鋼種 | 処理法 | 表面硬度 | 化合物層 | 拡散層 | 表面粗度 | 表面粗度 |
HV0.1 | μm | μm | Ra | Rmax | ||
SKD61 | 未処理 | 592 | - | - | 0.02 | 0.05 |
ラジカル窒化 | 1230 | 0 | 130 | 0.04 | 0.2 | |
ガス軟窒化 | 894 | 12 | 130 | 0.18 | 2.88 | |
イオン窒化 | 1250 | 8 | 100 | 0.14 | 0.98 |
ラジカル窒化と複合硬化処理の応用例と効果
ラジカル窒化を用いると、射出成形、プレス成形等で使用される金型、各種部品の寿命が著しく延びます。特にプリハードン鋼使用の金型では、寸法変化がないため最適です。当社では金型以外にも治具などの各種機械部品へのラジカル窒化処理の適用を進めております。
種類 | 処理 | 効果 | |
樹脂型 | キャビティ | 窒化 | ・窒化後の研磨不要 |
コア、ピン | ・型寿命:約5倍(未処理品と比較) | ||
プレス型 | 粉体(フェライト) | 窒化 | ・型寿命:2~5倍 |
鍛造型(鋼塊) | 窒化+TiCN, CrN | ・耐面圧性向上 | |
絞り型(鋼板) | ・膜剥離発生が大幅減少 | ||
曲げ型(鋼板) | ・型寿命:2~3倍(成膜処理品と比較) | ||
成形ロール | 転造 | 窒化+TiCN | ・CVD処理品より熱変形小 |
フォーミング | ・ダイス寿命:2~3倍(成膜処理品と比較) | ||
バニシング | |||
射出成型機関連 | スクリュー | 窒化 | ・窒化後の研磨が不要 |
バレルなど | ・寸法精度向上 | ||
押し出し機関連 | ゴム押し出しダイス | 窒化 | ・型寿命:約10倍(未処理品と比較) |
機械部品 (合金工具鋼) |
耐摩耗治具 | 窒化+TiN, TiCN, CrN | ・寿命:2~5倍(成膜処理品と比較) |
機械部品 |
ラジカル窒化って何?
ラジカル窒化処理装置および処理工程の概略
装置は、真空チャンバー、真空ポンプ、自動圧力制御装置、ガス制御装置、直流電極、プラズマ発生用の直流電源、外部加熱炉そして冷却装置から構成されます。
処理内容は、まず処理部材を脱脂洗浄後、真空チャンバー内の直流電極上に置き、排気(真空)、昇温後、反応ガスを炉内に導入します。
その後、処理部材の表面にプラズマを発生させ、ラジカル窒化処理後、冷却します。本処理は、反応性の高いプラズマを作ることができるため、化合物層の面荒れによる表面の変化がない。
そして均一で深い拡散層のみをつくることができます。
※ラジカル窒化は、住友金属鉱山株式会社,日本コーティングセンター,日本電子工業株式会社の共同研究によって開発された技術です。
ラジカル窒化処理のメリット
硬度低下、歪みがない
500℃以下の温度で処理。よって、SKD,SKH等であれば、残留応力が無ければ硬度低下、歪みは発生しない。
処理後の磨きが不要
イオン窒化、ガス窒化は表面に化合物層ができ方面が荒れるため、処理後バフ磨きが必要である。本処理は化合物層が出来ず、表面の面荒れがないため、バフ磨きが不要。
剥離がない
窒化は表面皮膜処理と異なり、拡散浸透型のため膜の剥離がない。
複合処理が可能
イオン窒化の場合、表面の化合物層を完全に取り除く必要があったが、本処理はそのままコーティング可能。
窒化深さが均一
従来、イオン窒化の場合、先端部分やコーナー部が重点的に窒化される傾向があったが、本処理の場合均一である。